業界

むかしとある広告業界にいたころ、とある監督に言われたのは「君はこの仕事に命かけられるか?」ということだった。「命、ですか」「俺はかけてるよ。ずっと命かけてやってきた。」「・・・」「死んでもいいよ」「・・・」「命かけないと出来ない仕事だと思ってるよ」



首都高を光速で(※体感速度)走りながら、まだ若かった(そして純情だった)ツマタンは必死に自問自答を繰り返しつつも、ぼんやりと何かが遠のいていくのを感じていた。



 命 は 、  か け ら れ ま せ ん 



私は命が惜しかったし、将来には結婚や出産や少なくともそれらの可能性は、可能性だけは、残しておきたいと思った。心身壊しながら働いてても、そんなのあたりまえだって言われる。みんなそうだよって。お金いっぱい稼いでて使っててかっこいい車に乗ってるかっこいいプロデューサー連中だって、おおむね胃を患ってるし早死にだ。同業種の同年代がノイローゼでレインボウブリッジから車ごと海に飛び込んだと聞いた。



 命 は 、  か け ら れ ま せ んね すいません




未熟なツマタンには自覚がなかった。睡眠不足と疲労とプレッシャーにぷぎゅぅっと押しつぶされて、「このまま事故れば休める」と、そんな状態にある人間がよく思い浮かべる方法でいくど車をぶつけようとしただろう。命のかけ方違うってw。しかしツマタンには仕事に命をかける度量もなければ橋から突っ込む度胸もなかった。弱かったし弱っていた。今ならわかる。



 命は かけられん じゃろ (広島弁



あのときは口に出せなかった。でも私は命をかけなくてよかったんだと今ならわかる。あのとき、死んでたまるかよってはっきり言えてたら(あるいはほんとに命をかけてたら)きっと私はもっと続いたんだろう。今ごろ年収3倍はあったかも_| ̄|○(それはそれで鬱なんだが)でも言えなかったしそもそもわからなかったんだ。ただ、このままじゃ死ぬヤバイと思った。それで私は逃げた。